中国の著名書家「顔真卿」の日本展が中国で炎上している理由
先日、東京国立博物館で特別展示されている祭姪文稿(さいてつぶんこう)の展示(東京国立博物館特別展『顔真卿ー王羲之を超えた名筆』開催期間1月16日~2月24日)を見てきました。所が、その展示を巡って中国では炎上しているというのです。中国の歴史上最高峰の一つとされる顔真卿の祭姪文稿は、特に中国・台湾の人にとって、大変な思い入れがある作品です。また今回の展示は、天皇皇后両陛下もご覧になられました。そんな門外不出の貴重な文物が日本に貸し出されたとあって、台湾においては、何故日本に貸し出すのか?一方、中国大陸においては、どうしてこんな貴重な文物の展示が(外国である)日本なのか?お金かかるし遠いし、簡単に見に行けないじゃないか!ということで炎上しているようです。結局、開催期間を通じて約20万人の人が訪れたようで、そのうち5万人ぐらいは中国人だったようです。(本記事の末尾に中国の報道記事を掲載)ちなみに、唐の時代の貴重な文化遺産であり、痛みやすい紙にかかれた書ということもあって、今回日本に貸出しをした為、次の展示まで3年間は倉庫に閉まって休ませる必要があるようです。(借展东京的颜真卿《祭侄文稿》返台 将休息3年以上 中国经济网03-01)
※祭姪文稿(さいてつぶんこう):顔真卿(がん しんけい)が758年に、「安史の乱」で非業の死を遂げた顔一族、特に姪(女性という意味はなく一つ下の宗族:顔杲卿の子、顔泉明の弟)を哀悼するために、怒りや悲しみを込めて一気に書き上げた書。中国の歴史における屈指の名作とされ、「稿」の意味は原稿で、弔文を書上げる為に、塗りつぶしや修正の跡が見られる。国家に忠義を尽くした顔真卿が、一族を哀悼する気持ちをも露わにした書は、中華史上屈指の名書とされ、歴代の皇帝が至宝として蔵した。また、顔一族は、1人も敵軍に屈さず、全員が残酷極まりない方法で処刑されたと伝えられており、顔真卿も単なる書道家に止まらず、国のために命をささげた烈士とされる。)
※中国の有名な書家:中国に有名な書家は数え切れない程いますが、王羲之(おうぎしwáng xīzhī 303-361 )、欧陽詢(おうようじゅん ōu yángxún 557-641)、虞世南(ぐせいなんyú shìnán558-638)、褚遂良(ちょすいりょうchǔ suìlián596-659) は最も有名な部類に入るでしょう。(東晋時代の王羲之を除き、初唐の三大家と言います。これに薛稷(せっしょく)xuē jì を加えて初唐の四大家( 中国語では初唐を逆にして唐初の四大家、ピンインはtáng chū sìdà jiā )と言う。)ちなみに、唐の皇帝(太宗)は王羲之の書を愛好しており、書家でもあります。書の歴史は中々奥が深いので、興味のある方は調べてみることをお奨めします。
※代表的な書体:篆書、隷書、楷書、草書、行書があります。印鑑の場合は多くは美しい篆書や隷書が使用されていますから、現在でもお馴染みですね。ピンインはそれぞれ、zhuànshū 、 lìshū 、 kǎishū cǎoshū、xíngshūとなります。中国も日本も印鑑を使う文化ですから、覚えておきましょう。
その他参考資料
日本への貸し出しに中台から不満が出た「国宝」、天皇皇后両陛下も見学―中国メディア Record China2019年2月21日(木) 11時30分
「祭姪文稿」どう読む? なぜ書の最高峰? 毎日ことば2019年1月12日 10分11秒
みどころ 東京国立博物館ホームページ
中国の有名な書家たち 書道入門
5つの書体について 書道入門
祭姪文稿(さいてつぶんこう)部分 顔真卿(がんしんけい)筆 唐時代・乾元元年(758) 台北 國立故宮博物院蔵
それでは、何故炎上しているのか、実際の記事を確認してみたいと思います。以下、記事(ダイヤモンドオンライン2019/2/4)を一部引用します。
(中略)
日本での「祭姪文稿」展示に対しSNSにあふれる批判と怒りの声
「ショックだ!なぜ日本へ?理解できず、死にそう…」
「悲しい!涙をこらえられない…」
「見られないのが悔しい極み」
「事の重大さは、知っているのか?」
「台湾政府は十分な議論をしないまま、国宝を海外へ持ち出す行為は極めて軽率だ」
「日本は以前兵馬俑展示の際、一騎の兵馬俑を破損した前科があるから、今回こそ大事に大事に扱ってほしい!」
などさまざまな声がSNSであふれかえっている。
特に議論の的になっているが、中国史上で屈指の名書といわれる「祭姪文稿(さいてつぶんこう)だ。
中国人にとっては特別な存在
なぜ、この作品に多くの中国人がこだわるのか。それだけこの作品は特別な存在なのである。
「祭姪文稿」は顔真卿が758年に、当時「安史の乱」で非業の死を遂げた顔一族を哀悼するために、怒りや悲しみを込めて一気に書き上げた書であると知られている。中国の書の歴史の中でも屈指の名作とされ、当時の歴史資料としても、とても貴重なものである。
顔一族約30人が、1人も敵軍に屈さず、全員が残酷極まりない方法で処刑されたと伝えられ、顔真卿も単なる書道家ではなく、国のために命をささげた烈士とされる。
ゆえに、この作品には特別な思いが込められていて、最高峰の文物と認識されている。幾度の戦火をくぐり抜けて、歴代の皇帝に至宝として所蔵されてきた。1948年頃に国民党が大陸から台湾へ撤退した時に、北京故宮博物館から運び出したおびただしい数の所蔵品と一緒に台湾に渡り、現在、台北の国立故宮博物院に所蔵されている。
「台北国立故宮博物院」に所蔵されているコレクションは、大陸から持ち出した文物を合わせて、約69万点がある。数ヵ月間、入れ替わりで展示しても10年間がかかるとされる。常時展示されている「翠玉白菜」や、豚の角煮「肉形石」などは世界的に有名だ。
ゆえに、長い間、中国大陸の「北京故宮博物館(紫禁城)」と台湾の「台北国立博物院」が比較される際には、一般に「北京のほうがスケールは大きいが、中身は大したことがない。むしろ、台湾のほうが価値の高い所蔵品が圧倒的に多い」といわれている。ちまたでは、「台北には文物があり故宮がない、北京には故宮はあり文物がない」といわれるゆえんである。実際のところはどうなのか、専門家の意見も分かれているようである。
今回、日本で展示される顔真卿の「祭姪文稿」は、「1400年前の紙、1回の展示につき1回の劣化を被る」という破損が懸念されるため、これまでめったに展示は行われず、台湾でも最後に展示されたのは10年以上前である。国外では1997年に米ワシントン・ナショナル・ギャラリーで展示されたのが最後だったそうだ。
だからこそ、今回は中国大陸でも台湾でもなく、日本で公開されることが物議を醸しているのである。
鑑賞したくても一部の人しか来日できない
批判の声がある一方で、「鑑賞したい!すぐ日本へ飛んでいきます!」、「このチャンスを逃してはいけない、どんなことをしても見たい!」、「こんな宝物にお目にかかれば死んでも惜しくない、一生満足だ!」などの声も多い。
実際、公開前から日本在住の筆者にも中国の友人から多数の問い合わせが来て、「チケットの予約をしてくれますか?」、「前売り券を買っといて、近日中に行きますから」などと対応に追われた。公開前日に来日し、初日に入場した友人もいる。その人の話では、入場者の半分は中国人だったという。中国の各マスコミの特派記者たちも早速、展示会の記事を書いており、報道されている。
このように、自国で見られなくて、わざわざ海を渡って日本に鑑賞に来る一部の人に対して、大多数の中国人が悔しい思いを噛みしめており、真跡に一目も触れられないのが現状なのである。
もっとも、多くの人は書道家でも歴史家でもなく、恐らく書のこともあまり詳しくは知らない。それでも、顔真卿の書、特に「祭姪文稿」には、ある種の「憧れ」があり、その神髄に触れたいということだろう。
しかし、それを鑑賞するための来日は決して容易なことではない。
渡航費などの費用がかかるほか、入国ビザが必要であるため申請手続きなどの手間もかかる。直ちに来られる人はやはりマルチビザを持つ一定の経済力のある人や、日本と仕事の関係がある人たちだ。
本来なら、世界の文化遺産の前には人々が平等でなければならない。なのに、こうして政治的な理由や経済的事情で、「鑑賞実現の道」が分かれてしまうのが残念であり、中国国内の経済的・政治的「格差」がこんなところでも現れているといえる。
今回、日本で展示されている「祭姪文稿」は、中国国内にいる多くの歴史専門家や学者、書道家などからしたら、喉から手が出るほど欲しい貴重なものだ。当然、何よりも「国民に届けたい作品」であることは間違いなく、それが日本でしか鑑賞できないという状況は、痛恨の思いであるに違いないだろう。
「批判の声」は収まり冷静な論評が出回る
展示会が始まって約3週間が経った今、徐々に日本での展示会の様子が中国で報道されるようになってきた。これまでの「批判の声」は少しずつ収まっているように感じる。代わりに、冷静で客観的な論評が出回り始めている。
例えば、特別展の公式ホームページを見て、こんな声が出ている。
「これまで数々の歴史文物の展示会のデザインを見てきたが、これほど繊細で品があって、書の神髄を理解したデザインは初めて、最高だ!」
また、入場券の写真をSNSで公開し、「正直、非常に品格があり文化の雰囲気が漂っている。大事に取っておきたい」という人も多数いる。
そして、展示会のディスプレーについても、高い評価の声がある。
「展示は、入門的なものから上級者向けのものまで、中国の書道の歴史が理路整然と示されていて、書道に詳しくない人にとってもわかりやすい。退屈せず興味を惹かれて、勉強になりました!」
「顔真卿の書の歴史や文化的な価値の説明が明晰だ、主催側の並々ならぬ努力が伝わってくる」
「日本は中国の書の文化を深く理解しているからこそ、このような高い格式の展示会ができたと思う。中国の本土の文物なのに、複雑な気持ちだ…」
など、日本での展示方法を称賛するような感想も増えてきた。
子どもを連れて鑑賞する中国人の親もいて、書道の歴史や背景を子どもに丁寧に説明する感動的なシーンもあったという。
「祭姪文稿」は独立した空間で展示され、日、中、韓、英文の説明が書かれている上、赤い垂れ幕が装飾されているのが、顔真卿本人の心境を表現している。そして、「日本のこの作品に対する理解と敬意を感じられた」とのコメントもあった。
とにかく、展示会を見た人の声がSNSであふれている。
「震撼(しんかん)としか言いようがない、心が打たれた!しばらくは何もできない…」
「どう気持ちを表現すればいいのか、言葉を見つけられない、わが国祖先の偉大さにただただ頭を下げる」
「このチャンスを逃したら、一生お目にかかることができないかもしれない」
「日本に行って絶対見たほうがいい!」と呼びかけている人もいる。
(以下中略)
出典:中国の著名書家「顔真卿」の日本展が中国で炎上している理由 ダイヤモンドオンライン 2019.2.4
成る程、重要な文物が日本に来ていたのですね。それにしても、多くの方がわざわざ中国から訪れていたということで、こんな貴重な書を日本で見る機会を得られて、大変良かったのだと個人的に思います。
さて、本ブログは中国語を学習するブログなので、ついでに中国語のニュースも見てみましょう。タイトルは「5万人の中国人が日本に顔真卿展を見に行く:一時間行列、56秒作品を見る」。中級者以上の方であれば、内容的には理解しやすいと思いますので、敢えてピンインや解説は付けておりません。応用の利く表現も多いと思いますので、必要に応じて辞書を引いて調べて、覚えられそうな表現は覚えておくとよいでしょう。
5万中国人去日本看颜真卿展:排队一小时,看展五六秒
本报记者赴日本看展
“为了多看几眼,我排了3次队……”赵星说。
在专门开辟的房间中展示国人看得感动流泪
中年人占比最高来自北京上海的最多
出典:5万中国人去日本看颜真卿展:排队一小时,看展五六秒人民日報 2019-02-22 20:39
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