これぞ初心者向け中国語教材やテキストの問題点?:人生初のSNS炎上経験から学んだ便宜一点儿 pián yi yì diǎnr(負けてくれ)の正しい使い方

本当にビジネス実践中国語教材やテキストとは何か?

『ぶっちゃけ神速中国語』は当ブログ以外にも、TwitterやInstagramを運営しています。

SNSアカウントでは、毎日初心者向けの中国語学習情報や自身の国際結婚生活等で遭った出来事をシェアしています。

そのうち、中国語学習情報では【○○の中国語8選】【シリーズ:○○の中国語】という図解シリーズを展開しています。

しかしそこで運営者が投稿した【シリーズ:教科書のウソ 納得いかない中国語 その1 安くしてくれ】という図解ツイートが、Twitterの中国語界隈で炎上した経験をしました。

元々【既存の中国語教材は初心者のために設計されていない!!】という思いから始めた事業ですが、この事件は初心者の語学学習にとってどんなことが問題となっているのかについて、考えさせられるものでした。

今回は自身にとってマイナスとなる覚悟で、皆さんにその時の経験と実践で使える中国語に関する学習のヒントをシェアしたいと思います。

これからの皆さんの中国語学習の参考、ならびに運営者の言語学や教育者としての考えの一端をご理解頂ければ何よりです。

Twitterで炎上した理由

問題のツイートは、2023年2月21日(火)に投稿した【シリーズ:教科書のウソ 納得いかない中国語 その1 安くしてくれ】という図解ツイートです。

この時に取り上げたのは、「安くしてくれ」という表現。

既存の中国語教材では「便宜一点儿 pián yi yì diǎnr 」と教えていますが、実際の中国現地では他に…

有优惠吗?
yǒu yōu huì ma?
訳:サービスできますか?(これ安くならない?)

我给你打○折吧。
wǒ gěi nǐ dǎ ○ zhé ba.
訳:○割引してあげますよ。

…といったよりスマートかつフォーマルな言い方もあるし、すでにイオン等のスーパーでも普通に使われている。それに都心部では「便宜一点儿 pián yi yì diǎnr 」をビジネスの場で使う場面は減ってきている。

それなのに、猫も杓子も「便宜一点儿 pián yi yì diǎnr 」と教え、かつ類義語の使い分けについて段階的に教えようともしていないのはどういうこっちゃ?という問題意識から、

1.便宜 pián yi→露天や屋台で使うやや俗な言葉、优惠 yōu huì→元は書き言葉だがすでに日常会話でも当たり前に使われる。

かつ都市部のスーパーやショッピングセンターといった外国人が立ち寄る可能性が高い場所では、优惠 yōu huì の方が遭遇する確率が高い。

2.よって実践的な語学の観点から、優先して覚えるべきは【优惠>便宜】

そういう意図の元、敢えて違いが強調される文言を選び、【「安くしてくれ」で便宜 pián yi は田舎でしか通用しない】という文言を載せました。

 

ところが、この【田舎】という単語が、自身の思惑とは全く違った方向に解釈され、投稿の翌日から中国語界隈で批判の的となりました。

以下、自身に寄せられた批判ツイートの数々を掲載していきます。

これらはまだ自身に直接指摘されている方々なのでまだいいとして、この他にも直接引用ツイートせずとも明らかに自身を指した批判ツイート、さらには自身の人格否定や経歴を噓偽りだと言い切るようなクソツイートもありました。

それらを総括すると、

  1. 【田舎】という言い方がやや差別的に聞こえる
  2. 【教科書のウソ】というタイトルが一部の人にとって、教科書という権威に対する不服従でDQN臭く見える

…のが不快だったのでは、と推測します。

【田舎と断定する表現は確かに稚拙で、不快に思う方がいらっしゃる】ことは運営者自身も反省しています。

 

しかし、ここで本来議論されるべきはそんな感情論ではなく、

  • 便宜一点儿 pián yi yì diǎnr は本当に現地で使える表現
  • 初学者が中国現地でも差し障りなく生活できるように現代中国の生活スタイルに沿って優先して覚えるべき単語なのか
  • 教科書に載ってある内容は何でもかんでも無批判に受け入れるべきなのか?

という実践的な立場に立ったもの極めて論理的な議論だと思います。

繰り返しますが、運営者の観点は、

1.便宜 pián yi→露天や屋台で使うやや俗な言葉、优惠 yōu huì→元は書き言葉だがすでに日常会話でも当たり前に使われる。

かつ都市部のスーパーやショッピングセンターといった外国人が立ち寄る可能性が高い場所では、优惠 yōu huì の方が遭遇する確率が高い。

2.よって実践的な語学の観点から、優先して覚えるべきは【优惠>便宜】

ここについて、明確に述べている中国語テキストはハッキリ言って未だかつて見たことがありません。

そこで、運営者は中国現地のある階層に意見を伺うこととしました。

 

中国人の言語学のプロに聞いてみた!!

上記のように様々な反響があったので、こちらでも改めてネイティブの人に「便宜一点儿 pián yi yì diǎnr」と「优惠 yōu huì」の違いについてコメントをもらいました。

運営者は翻訳業、または言語教育に携わるという仕事柄、日頃から大学の先生とも頻繫に交流をとっていますが、今回のように教科書や学会で明確な結論、つまり常識が設定されていない分野は、ただ闇雲にネイティブに質問するだけでは問題点を上手く言語化できないと思い、ある大学の言語学専門の副教授に質問してみました!

質問内容は以下の通りです。

请问,需要打折的时候,
qǐng wèn,xū yào dǎ zhé de shí hou,

  1. 便宜一点
    pián yi yì diǎnr
  2. 打个折
    dǎ ge zhé
  3. 优惠一点
    yōu huì yì diǎnr

用这3个说话,有什么区别的?
yòng zhè sān ge shuō huà,yǒu shén me qū bié de?

訳:割引をしてもらうとき、①②③、この3つの言い方をする時に、どんな違いがありますか?

その結果、件の副教授からは以下の回答が返ってきました。

(運営者のWeChatスクショより)テキ

都是一样的意思。1和3适用范围更广,2一般在商场,档次高一点的地方(才用)。
dōu shì yí yàng de yì si. 1 hé 3 shì yòng fàn wéi gèng guǎng,2 yī bān zài shāng chǎng,dàng cì gāo yì diǎn de dìfang (cái yòng).

比如,你去菜场买菜,就不会说2。但你去商场买化妆品,买衣服就会使用2。
bǐ rú,nǐ qù cài chǎng mǎi cài,jiù bú huì shuō 2. dàn nǐ qù shāng chǎng mǎi huà zhuāng pǐn,mǎi yī fu jiù huì shǐ yòng 2.

訳:どれも同じ意味です。1と3の適用範囲がより広いですね、2は通常ショッピングセンターや、ちょっと敷居が高い場所で使いますね。

例えば、市場で野菜を買うときに、2は使わないです。でもショッピングセンターで化粧品や服を買うときは使いますね。

なるほど、これだけ見れば「打折 dǎ zhé」だけがちょっぴり高級で、「便宜一点儿 pián yi yì diǎnr」と「优惠 yōu huì」に違いがないように見えますが、そんなはずはない。運営者はこう続けました。

 

不过最近在正式的场景,或者永旺那样大型连锁店的话,还是优惠比便宜用得多一些,您有这个感觉吗?
bú guò zuì jìn zài zhèng shì de chǎng jǐng,huò zhě yǒng wàng nà yàng dà xíng lián suǒ diàn de huà,hái shì yōu huì bǐ pián yi yòng de duō yì xiē,nín yǒu zhè ge gǎn jué ma?

訳:でも最近オフィシャルな場面や、イオンのような大型チェーン店だと、やっぱり「优惠」を「便宜」よりもよく使いますね、そういう感覚ってありますか?

それに対する副教授の答えは以下の通り。

便宜比较随意,优惠好些。
pián yi bǐ jiào suí yì,yōu huì hǎo xiē.

訳:「便宜」は結構砕けた言い方だから、「优惠」の方がいいですね。

やはり、便宜 pián yi はオフィシャルな場面やデパートなど、口約束で割引を行わない場所ではあまり使わない言葉だという認識があるようです。

他にも数名の中国人博士や妻にも聞いてみましたが、さすがに上記の副教授ほど明確に言語化できるまでの意識はないものの、共通して返ってきた回答は、

便宜 pián yi はやっぱり話し言葉だよね、优惠 yōu huì の方が街中やスーパーのPOPで見かける割合は高いし、よりフォーマルなんじゃないかな?

でした。

運営者自身の経験としても1つ例を挙げます。

デリバリーサービスで有名な美団 měi tuán 等でもよく使う割引券という単語、中国語では通常 优惠券 yōu huì quàn と言いますが、これを便宜券 pián yi quàn と言う言い方は見たこともないし、実際ネイティブの感覚としても使いません。

日本語で言えば、割引券や優待券と「動名詞」を使う言い方はするけど、安くする券みたいな「動詞をストレートに使う」言い方は俗っぽい、ややもすれば子供っぽいと思ってしまうのと似ているでしょう。

以上、便宜 pián yi 优惠 yōu huì は同じ動詞グループに属し使う場面は似通っていても、やはり適切なシーンの違いは存在するのです。

 

便宜=顧客による価格交渉の結果。优惠=店側の善意によるサービスの結果。

以上のことをまとめると、以下のことが言えます。

  1. 便宜一点儿、优惠一点儿。どちらも同じ意味で使うけど、やはり正式な場面では便宜 pián yi よりも优惠 yōu huì を使う
  2. 优惠の方が相応しい正式な場面とは、具体的にはビジネスやショッピングセンターといった現代的な空間での場面。特に最近ではイオンみたいなショッピングモールでも使用頻度は 【优惠>便宜】 とさも当たり前のように普及している。
  3. 「打折」「优惠」と「便宜」は根本的に発想が異なる。「打折」「优惠」とは、価格が決まった状態の店舗形態=【※デパートやスーパーのような老板個人の裁量で価格を決められないお店】の商品に、『サービス』として行う値引き。つまり前提が【店側の善意】
  4. 逆に「便宜」とは、価格が流動的な店舗形態=【※個人商店や法的責任の薄い露天や個人商店】の商品に、『値段下げろ』と言われて行う値引き。つまり前提が【顧客の交渉】
  5. 結論:优惠 yōu huì=店側の善意によるサービス。便宜 pián yi=顧客による価格交渉

いずれも同じ場面で使いますが、分かりやすい例として【場所がデパートか市場か】で使用頻度&単語によって主語となる視点に差があります。

繰り返し述べますが、運営者が言いたかったのは、

1.便宜 pián yi→露天や屋台で使うやや俗な言葉、优惠 yōu huì→元は書き言葉だがすでに日常会話でも当たり前に使われる。

かつ都市部のスーパーやショッピングセンターといった外国人が立ち寄る可能性が高い場所では、优惠 yōu huì の方が遭遇する確率が高い。

2.よって実践的な語学の観点から、優先して覚えるべきは【优惠>便宜】

…ということです。

決して「田舎に住む人を批判する」ために行ったツイートではないということを、理解して頂ければ幸甚ですm(__)m

 

言語学・外国語実践教育の問題として取り上げる難しさについて

今回の反省も兼ねて、運営者に対して批判ツイートを行ったのはどんな人達なのか、ということを分析してみましたら、【中国現地で生活している日本人、職業は教育関係以外】の方が多かったことが分かりました。

運営者自身は90年代生まれ、当然運営者自身より遥かに中国歴・中国語歴も長く、キャリアも豊富で現地人と結婚されている方はたくさんいらっしゃることでしょう。

そういう方々にとっては、至極当たり前の問題、または感覚で分かる問題、「ネイティブの夫or妻が言うんだから…」とお考えになる気持ちは、運営者自身も中国現地で暮らしているゆえに理解はできます。

 

しかし、運営者が今回敢えて自分に不利になるかもしれないテーマをブログまで掘り返したのは、これが言語学・外国語実践教育の問題として取り上げる難しさにつながる重要な問題だからと認識しているからです。

 

運営者自身のように最初から中国史等に興味がある人の場合、往々にしてイチイチ他者から懇切丁寧に説明されなくても中国語独特の使い分けを何となく感覚で理解できてしまうのですが、これを日本で暮らして中国語に触れたことすらない初心者に向けて伝えると、この当たり前こそが最大の問題点となるのです。

 

今回の炎上ツイートに対して、あの語林中国語教室の林 松涛(りん しょうとう)先生【『つながる中国語文法』『マップ式 中国語単語記憶術』等多数の中国語教材を出版されています!!】も次の分析ツイートをしてくださいました。

林先生もご自身の授業では优惠 yōu huì をよく教えるとのこと。先生の観点をまとめると以下の通り。

  • 今の中国では、値切る場面が減った上で、相手の立場に立って「有优惠吗? yǒu yōu huì ma?」「能优惠一点吗? néng yōu huì yì diǎn ma?」とより丁寧に話すようになりました。
  • 「正解はひとつだけ」と思わなければいいです。
  • 优惠 yōu huì はよりスマートな表現となります。

ここで最も注目すべきは、【今の中国では値切る場面が減ったという現代中国の時代背景を述べていること。

ここが専門家や現地で暮らしている人にとっては体感的に説明不要であるゆえに、初心者向け教育では明文化して説明されない、つまり教える側に「取り上げるべき問題である」という意識が湧かないのです。

 

教育とは、根本的に「何も知らない人」に「未知の知識を提供する」サービスです。

昨今よく言われる「顧客体験」も、結局「あなたと一緒にワクワクできたか」でしかない。だから当たり前なんて偉そうにせず、ゼロから親切に誰かをエスコートしてワクワクさせる。

教育業界にいる人間として、そうした不親切極まりない現状を打破するために、これからも上記の確固たる意志を持って、引き続き皆さんに役立つ情報をお届けしていきたいと思います!!

皆さんも、単語を覚えたり会話を練習する時は、似た使い方をする動詞の場面による適切度の差を意識してみると、より単語を覚えやすくなり、かつ違いや共通点を言語化できるようになるのでオススメです!(^^)!

 

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