鳥山明さん死去で中国外交部が「深い哀悼の意」を表明、ドラゴンボールから日本の中国文化受容について考える

日々知らずに接している中国由来の文化と思想、日本文化の雑種性と対中国の偏見について考える

「ドラゴンボール」や「Dr.スランプ」で世界的な知名度を誇る漫画家・鳥山明さんが、3月1日に急性硬膜下血腫で亡くなっていたことが報道されました。

参考記事:漫画家の鳥山明さん死去、68歳…「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」「ドラクエ」

全世界で鳥山さんの訃報が報道された3月8日、中国外交部の毛寧氏は定例会見にてわざわざ貴重な時間を割いて鳥山さんへの哀悼の意を表明し、CCTVの各メディアチャンネルでもその際の切り抜き動画が公開されています。

↓↓その動画はコチラから↓↓

 

東映アニメーションからは、今年(2024年)秋からドラゴンボール40周年を記念して新作アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』の放映が決定し、次の新作映画はいつ出るのか?と多くのファンが期待していた矢先の訃報でした。

「ドラゴンボール」は「ワンピース」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」等に先んじて世界進出した日本製の漫画として、今や世界中から愛される作品となり、原作漫画の連載が終了して約30年経った今でも、格闘ゲーム、アクションゲーム、映画、同人作品等のメディアミックスが絶えず生まれる、まさに永久不滅の作品といえるでしょう。

運営者自身もアニメ「ドラゴンボールZ」「ドラゴンボールGT」とスーパーファミコンの格闘ゲーム「超武闘伝」シリーズ、PSの「ファイナルバウト」は小さい頃に近所の友達を一緒に見たり遊んだりしたことは今でも思い出されます。

 

ドラゴンボールが生まれたきっかけはジャッキー・チェン「酔拳」と中国取材旅行

まさに日本の代表的な漫画・アニメ作品ですが、「ドラゴンボール」が制作される前、鳥山さんは週刊少年ジャンプに連載中の「Dr.スランプ」のネタに行き詰まり、編集者に相談したところ「3か月後に新連載を始めるのなら終わってもいい」との条件を出されました。

この頃、鳥山さんを担当していた集英社(当時)の鳥嶋和彦氏は、鳥山さんがビデオを見ながら漫画を執筆することが気になり、理由を尋ねると「ジャッキー・チェンのビデオをずっとかけてて仕事してると。で、1つの映画を50~60回見てる」との返答が。

それを見た鳥嶋氏が鳥山さんに「そんなに好きだったら一回カンフーの漫画を描いてみない?」とアドバイスしたこときっかけで、「ドラゴンボール」の前身の短編マンガ「ドラゴンボーイ」が誕生。この作品を元に、鳥山さんのこだわりが詰まった大ヒット作「ドラゴンボール」が誕生したのです。

(「ドラゴンボーイ」は中国語で龙骑少年 lóng qí shào nián キャラデザインは今でいえば幼少期の孫悟飯に似ている)

参考記事:鳥山明さん「ドラゴンボール」誕生秘話 きっかけは世界的アクションスター「そんなに好きだったら…」

 

さて、ジャッキー・チェンが好きだった鳥山さんですが、鳥山さんが元々構想していたのは、私達がよく知っている格闘バトル漫画ではなく、「西遊記」をモチーフとしたギャグ漫画でした。

しかし、鳥山さんは特別中国に詳しいわけでもなかったので、「Dr.スランプ」連載末期の1984年5月11日から20日に、奥様と一緒に中国へ自ら足を運び取材に行っています。

鳥山さんご夫妻はこの取材旅行で北京、上海、昆明、桂林などの都市へ足を運びました。この取材で鳥山さんが得た着装としては、「Dr.スランプ」時代から続く【動物を擬人化した中国テイストな】キャラクターデザインと【桂林の自然風景】をモチーフとした風景デザインやアイテムです。

(かつて公開された「ドラゴンボール」キャラクターデザイン構想案。悟空=子供、猪八戒=二足歩行の豚で人間臭いスケベ、三蔵法師=露出度高い年頃の女性…悟空、ウーロン、ブルマのデザイン構想はほぼ一致している)

また、桂林といえば現在でもカルスト地形が美しい山水の風景で知られる観光地で、この風景はどこか孫悟空が最初に悟飯おじいちゃんと暮らしていたパオズ山の風景に似ているとも言われています。

桂林の風景

(「ドラゴンボール」第1話「ブルマと孫悟空」より)

こうして、多分に中国テイストを吸収した新作漫画「ドラゴンボール」は1984年11月より週刊少年ジャンプにて連載開始。しかし「西遊記」をモチーフとしたギャグテイストの強い作風は早々に行き詰まり、そこで編集者からのアドバイスを受けた鳥山さんは【天下一武道会編】をスタート、「ドラゴンボール」を徐々にバトル漫画へと変貌させていきました。

ファンタジー漫画ではなくなった「ドラゴンボール」、しかし【中国】の要素は寧ろ様々な場面でより鮮明に活かされています。

数を挙げればキリがないので、ここでは簡潔にその項目と代表的な例を少しだけ紹介していきます。

  • キャラ設定
    ⇒孫悟空=大猿になる、亀仙人=長寿、ウーロン=豚・人民服、チャオズ=キョンシー
  • 服装
    ⇒ピラフの服には簡体字。ヤムチャ、桃白白、チチ、孫悟飯や孫悟天(幼少期)の私服は常に中華風

  • 拳法
    ⇒道着、流派が中国をモチーフとしている

  • 料理
    ⇒天下一武道会の料理は後半までずっと中華料理メイン

  • 気の活用
    ⇒『易経』『中庸』→朱子学、日本の武道でも無意識のうちに使う
  • 中国語
    ⇒ウーロン、ヤムチャ、プーアル、桃白白、チャオズ…名前の由来は中国語
    ※ほか、敵キャラの名前は鳥山さんの地元の名古屋料理英語などからも由来。

たったこれだけでも、「ドラゴンボール」のネタのあちこちに相当程度【中国文化】が内包されているのが分かりますね。

無意識のうちに接している中国文化や思想の数々

「ドラゴンボール」は一目見れば「これは中国(東洋)っぽいな!」と分かる作風です。他のジャンプ作品を見てみると、「ドラゴンボール」ほどハッキリと【中国】【中華!】とはいかないまでも、やはり東洋≒中国の要素をストーリーや設定の根幹部分に組み込んでいます。

ジャンプ作品には他にも【中国】【東洋思想】を根幹設定に組み込んだ作品がいくつかありますが、ここでは代表的な例をいくつか挙げてみたいと思います。

例1. 「北斗の拳」…拳法や地理・勢力の設定が中国そのもの

「北斗の拳」はハリウッド映画「マッドマックス」をモデルとした核戦争で荒廃した世界を生きる拳法使いとそれに関わる軍閥の物語ですが、北斗神拳は【1800年前に中国にて創出された拳法】で、誰でも一度はマネをしたことがある北斗百裂拳!!経絡秘孔などの知識は、言うまでもなく中国拳法や中国医学の知識が元ネタです。

また、南斗聖拳108派の頂点に立つ南斗六聖拳は【かつては皇帝の居城を守る六つの門の衛将】であったという設定があります。

いて座の弓の一部を構成する六つの星(アスケラ、ヘカテボルス、ヌンキ、ナント、カウス・ボレアリス、ポリス)が南斗六星と呼ばれていると同時に、六つの門という設定は北京故宮(紫禁城)建築時に設計した『礼記』の天子九門に倣ったと考えられます。

※北京故宮は3つの正門以外に「6つの門」がある

 

他にも、第2部のカギとなる【天帝】という言葉は中国道教などの神話で語られる最高神から由来するものです。

 

例2. 「ジョジョの奇妙な冒険」…独創的な根幹設定は西洋じゃない!

「ジョジョの奇妙な冒険」といえば作者の荒木飛呂彦さんがフランス・パリのルーブル美術館で共同企画作品を出したり、キャラデザインがパリコレのモデルの髪型やポーズをモチーフとしていることはよく知られていますが、一方で根幹設定の1つである【波紋】は、チベットを発祥として伝えられる秘術とされています。

波紋は特殊な呼吸法により、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す秘法である。とされており、「ドラゴンボール」や「北斗の拳」同様に「気の活用」を基礎としています。

しかしビジュアルが地味だったことから、第3部以降は主な格闘スタイルが見た目にも派手なスタンドに変更されましたが、スタンドは漢字で幽波紋、やはり系統としては波紋の流れをくむものだといえます。

異国文化の「ローカライズ(日本化)」に長けた日本人、そのままマネする中国人

以上は現代漫画の例ですが、日本人は歴史的に見ても意識して、または無意識のうちに多くの中国文化を吸収し、さらにはそれを「ローカライズ(日本化)」することで発展してきた民族だと言えるでしょう。

例えば奈良時代の律令制は言うまでもなく中国・隋唐から学んだもの、江戸時代になると儒学・朱子学・陽明学を独自に解釈してそれが幕府の統治思想や幕末の尊王攘夷思想に影響を与えたことは有名です。

他にも、「ドラゴンボール」等の現代漫画に近い源流を持つものとして、江戸時代の庶民文学の『三国志』の二次創作が知られています。

その中1つ例を挙げると1789年に刊行された『讃極史(さんごくし)』、作画は葛飾北斎という豪華な作品!この作品では劉備が諸葛亮に全てを託して1人隠居していると、なんと曹操と孫権が劉備が隠居する庵を訪れ、昔のことを語り合うというストーリーになっています。

今でいえば、本来集うことがなかった異世界の偉人が集まるギャグ漫画「聖☆おにいさん」と少し似ているでしょうか?(笑)

早稲田大学図書館のホームページにて実際にこの作品を読むことができるので、是非目を通してみてはいかがでしょうか?

『讃極史』を読んでみたい方は⇒コチラ⇐をクリック

以上見てきたように、世界に誇る日本の「漫画・アニメ文化」は少し掘り返しただけでも【中国】【東洋思想】を元ネタにした作品が数多く生み出されていることが分かりますね。ですが、日頃の生活で我々日本人がそれを【日本で生まれた作品】とは思っていても【中国を基にした作品】と意識することはあまりないでしょう。

それはひとえに、日本人が歴史的に「ローカライズ(日本化)」することで異国のものを日本人が馴染みやすくデフォルメすることに長けているゆえに【日本人はクリエイティビティに長けた民族だ】【日本文化は東洋・西洋との全く異なる独自の文化圏を築いている】という誤解を無意識にしているともいえるのではないでしょうか?

一方、中国といえば歴史教育に絡む反日デモや汚染水問題を利用したネット上の日本批判のイメージが強烈ですが、殊日本のサブカルチャー文化に関しては【政治的判断抜き】でその作品そのものの良さをそのまま【ローカライズ】をせずに受け入れる傾向があります。

記憶に新しい所では、中国2023年大晦日の跨年晚会 kuà nián wǎn huì(年越しの夕べ)で、ビリビリ動画とコラボした舞台版「ドラゴンボール」にて、高橋洋樹氏本人が「摩訶不思議アドベンチャー」を熱唱したことが思い出されます。

中国では日本製のアニメや漫画は低レベルなパクリはあっても、キャラ設定に日本アニメのキャラをそのまま引用して二次創作を作る、というような文化はなく、あくまでも【そのままの形】にこだわる傾向があります。

このことによって、寧ろ本当の意味で【原典の良さ】を理解するチャンスは日本と比べても決して劣らず、中国では【国のイメージ】と【作品の良さ】を理解する上では切り離されている場合がおおいといえます。

流されやすい国民性、文化理解に偏見を取り除くには?

2024年現在、高度な政治的判断によりオフィシャル上での日中関係は決して良いとは言えません。それに各メディアのニュースでは日々「格差が広がる中国」「中国のバブルは終わる」「政権の危機」といった、【中国に対して現実の程度を超えて過剰なネガティブイメージを叩き込もうとする】悪意に満ち溢れた報道が流れ、日本人が中国を理解する上では極めて不利な材料に溢れています。

しかし、かつて1970年代に田中角栄内閣と周恩来首相が日中国交正常化を結んだ際には、日米友好ムードを上回る勢いで中国に対するポジティブイメージが報道された歴史もありました。当時の中国に対する好印象は今の若い人からすれば全く想像できない話でしょう。

この当時は中国が日本を高度経済成長を成功させた模範としてリスペクトしていたと同時に、日本からも中国市場待望論が生まれ、中国を日本経済成長の階としようとしていた風習がありました。

当時は市場レベルやGDPを含めて明らかに日本>>>>中国であったため、当時の日本は中国に対してある意味余裕ある態度が取れたともいえるでしょう。しかし2024年現在、市場レベルやGDPはがすでに中国>>>日本、50年前とはと全く逆になってしまいました。それでも日本はメディアや文化が多くアメリカナイゼーションされ、どこかで「アジア諸国=劣った国」という先入観を捨てきれていないと感じます。

かつてとは違い、むしろ中国経済の恩恵を享受する側となっている今の日本は、メディアの偏向報道から飛び出してより広く深い視点から【中国文化】【東洋文化】を理解することが経済戦略、ひいては全国民の教養を高めることと最早切り離せないといえるでしょう。

それこそが、偏見を取り除くことにつながると私は信じて、これからも発信を続けていこうと考えています。

中国外交部の哀悼の意全文を中日対照で読む

最後に、中国外交部の毛寧氏が発表した鳥山さんへの哀悼の意全文を中日対照でお送りします。

我们对鸟山明先生的逝世表示深切的哀悼,向他的家属表示诚挚的慰问。
wǒ men duì niǎo shān míng xiān sheng de shì shì biǎo shì shēn qiè de āi dào,xiàng tā de jiā shǔ biǎo shì chéng zhì de wèi wèn.
我々は鳥山明先生の逝去に深い哀悼の意を表し、ご家族の方々に心からお悔やみ申し上げます。

鸟山先生是著名的漫画家,他的作品在中国也深受欢迎。
niǎo shān xiān sheng shì zhù míng de màn huà jiā,tā de zuò pǐn zài zhōng guó yě shēn shòu huān yíng.
鳥山先生は有名な漫画家であり、彼の作品は中国でも大変人気があります。

我注意到不少中国网友也对他的去世表示哀悼。
wǒ zhù yì dào bù shǎo zhōng guó wǎng yǒu yě duì tā de qù shì biǎo shì āi dào.
私も中国で多くのネットユーザーが彼の逝去を悼んでいることを認識しております。

我们期待也相信日本会有更多的有识之士积极投身中日文化交流和两国友好事业。wǒ men qī dài yě xiāng xìn rì běn huì yǒu gèng duō de yǒu shí zhī shì jī jí tóu shēn zhōng rì wén huà jiāo liú hé liǎng guó yǒu hǎo shì yè.
我々は、日本からより多くの有識者が中日文化交流と両国の友好関係に積極的に身を投じることを期待し、信じています。

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